アメリカ政府と民間研究所の関係

 

  研究者とか社会の変化についてもお話を伺った。乳癌摘出法でフィッシャー方式という手術がよく行なわれているらしい。その方式の開発者バーナード・フィッジャーは毎
年、9ミリオンダラー(邦貨にして約10億円)のお金をNIHの国立癌研究所からもらっている。ところがフィッジャーの研究班のカナダの研究者がデータのごまかしをやった。
このスキャッダルが1~2年前に学会や議会で大問題になったそうだ。研究者のスキャンダルはアメリカではもう珍しくない。日本でもあるハズだけど、どうも日本はフタがし
っかりしているらしく、さわがれない。

 お話が依然として理路整然と流れていく もっと気楽な動向の話がほしい。そこで、「研究者は昔と変わりましたか」と聞いてみた。

  はじめ少し間があった。

  笑いながら、「そりゃね、昔と比べれば昔のほうがよかったよ。ボクはケネディの時代に来たけど、グラント(研究費のこと)をとるのが楽だったし、研究も自由だったよ
。いまはプロジェクトが決まると、そこにはどっさり研究費がいくけど、プロジェクトからはずれた研究はほんとにやりにくい、だから大腸菌のミュータントをとってなんてい
う地味な研究はやりにくいだろうね。流行の波に乗っていかないといけないんだな」

  「もう1つ変わっだのは、官民一体ということかな、政府と民間研究所が密接に協力するようになったことだね 例えば、エイズの薬でエーズィーティー(AZT)という
のがあるんだよ。エイズウイルスの増殖を抑えるんだ。ここのミツヤ君(満屋裕明:NIHの室長だったが、その後日本に帰国)もからんでいるけど、そのパテントはNIHがもって
いて、薬はバーロー・ウエルカム社(イギリス系のカナダの会社)が製造販売してるんだ。ところがね、このウエルカム社の売っている薬の値段が非常に高い。1人のエイズ
者に10万ドル(邦貨にして約1千万円)もかかるんだよ。それでNIHがクレームをつけた。そうなると、ウエルカム社は値段を下げざるを得ないので、値段を下げた。ところが
、“NIHと協力すると、製品の販売にまでクレームがつくからやめた方がいい”というウワサが民間企業の間にパアーと広まってしまった。それでNIHも最近、仕方なく方針を変
えたよj

 [ヒトゲノムプロジェクトで解明された遺伝子のデータでも、NIHは、昔はパテットをとっていた。しかしそうすると、結果として、企業活動を抑えてしまうので。いまはとら
ない方向に変わったよ。もっともヒトゲノム研究所(ヒューマン・ゲノム・リサーチ・インスティテュート)はNIHとコントラクト(請負研究)を結んだ企業なんだけど、自分た
ちでパテントをとって製品化している ところが、NIHのグラントという国民の税金を使って得た研究成果で、私企業がパテントをとってもうけていいのか、という点が問題視さ
れてね。いよ、争議中だよ」

 「大学の研究者がNIHのグラントでやった研究成果のパテントは、大学の研究者に所有権がありますか?」、と聞いたら、その場合は問題がないそうだ。若いアメリカ人研究者
が日本にいくわけがない

   ドクター・力ヶフダは日米癌研究協力プログラムのアメリカ側代表の1人である。それで日米協力についてもお話を伺った。

  「外国人が引き上げたら、NIHはつぶれちゃうよNIHの研究者の半分ぐらいは外国人だね、日本人は400人以上もいる。そのフO%がNIHから給料をもらっている 中国人や
イタリア大も最近増えてきたけど, 400人以上ってのは、他の国に比べ抜群に多い。日本は人数が多い上、さらにNIHから給料をもらっている比率も他国からの研究者に比べて
多いんだ。一方、日本の学術振興会がいままでアメリカ人の若手研究者を日本に留学させようとしたけど、あまり成功していない。というのは、アメリカでは1ヵ月でも研究室
を空けたら、研究室をとられちゃって、もう帰ってこれない。だから、若いアメリカ大研究者が日本にいくわけがない。言葉の問題もあるにはあるけど、それより、こういうア
メリカ側の研究体制のほうに原因がある。ボクもある企画に協力したことがあるけど、日本に留学しようかという希望者はアメリカにいる外国人だけだよ」

  「そういうわけで最近、学術振興会はNIHにきている日本人をサポートする方針に切り替えたネ。いまこの援助を受けている日本人研究者がNIHに40人ぐらいいるかな。
これはNIHにとても好評だね」理路整然としたお話を伺ってきたが、もうそろそろおいとよしなくてはと思い始めた。腰を浮かし始めると、ドクター・カケフダは、「昨年の暮
れに日本大使館で講演したり、パーティやら忘年会やらで酔って言いたい放題しゃべったら、その後、ドクター・カケフダの話を本にしないかということになった」、という。ニ
ューヨーク在住の日本人女性のコーディネーターを通して文鴉春秋社の編集長が会いにきたりで、ドクター・カケフダ、いよいよ処女作を書く気になっているご様子。イヨー、
日米医学研究の生き証人。ゼヒ書き上げて出版していただきたい。けど、日本語ダイジョーブ?

 アメリカの事情がわかってきて、日本のことをまだ忘れてない畸期がある。マサには、ちょうどいまが旬の日米科学比較文化論をお願いした。

不肖ハクラク著より