新聞から知的で幅広い英語力をゲット

 

 冬が深まり、経済だけではなく社会全体にも沈滞ムードが広まっていたある日、ひょっこりKが訪ねてきた。トレードマークである笑顔は消えて、何か事情のありそうな暗い表情を浮かべていた。はたして、彼女はこう囗を開いた。

 

 「私、会社をクビになりそうなんです。不況で業績が低下したから、結婚した人は退職してくれというんです。TOEICレベルAも役に立ちそうもありません。会社というものには正しいルールがないなんて知りませんでした。さほど能力もない男性が一家の主だからという理由で残るいっぽうで、能力もあり、まじめに働いてきた女性が旦那さんがいるからとリストラの憂き目にあうなんて」

 

 そうか、結婚早々職を失うのか。といって、クビになりたくないがために離婚するのではシャレにもならない。

 

 「噂には聞いてたが、キミがその当事者になるとはね……思っていたが、韓国企業の人事管理の水準はいいとこ三流だな。人材重視なんて口先だけだ。で、そのあと、どうするつもり?・」

 

 「しつけもう、辞職願は書いたんですが、この先のあてはありません。あれこれ考えてはみるんですが、自分にはこれといった技術も経験もないし、再就職はきびしいでしょうね。どうしたらいいと思います?」

 

 「英語で勝負してみたらどう?」

 

 「英語で? 翻訳のようなものですか?」

 

 「それもいいが、キミに翻訳の経験はないからな。やっぱり、まずは外資系の企業あたりへ就職するのが無難だろう」

 

 「それにしても簡単じやないでしょう。ずいぶん競争がはげしいんでしょう?」

 

 「でも、書類審査と英語での面接を重視する会社なら、勝算はあるはずだよ」

 

 「そうですね。トライしてみようかな」

 

 Kの顔にわずかに生気が戻ってきたので、私はさらにアドバイスを与えた。

 

 「じやあ、こうしたらいい。帰る途中でアメリカ文化院か大使館に寄って、オリジナルのアメリカの新聞を一部手に入れる。それを一か月間くらいずっと読み込んでみるんだ。一〇〇%採用されるはずだよ」

 

 「どうして新聞なんてすか。時事英語に慣れろということですか」

 

 そういう意味もあるが、現段階では、キミの英語は少し『軽い』はずだ。語彙も日常用語に偏っていると思う。だが語学面接の場合は、いくらか重みのある言葉づかいのほうがいい点数を取れるからね。新聞はそれを学ぶのにぴったりなんだ。難解な文章というのではなく、事実の伝達にふさわしいわかりやすい言葉を使いながら、適当に知的で落ち着いた表現が多い。それに、われわれの人生をすべてカバーするような幅広い分野の記事が載っている。とくに経済、社会、政治分野の語彙を覚えるのに、新聞ぽどよい教材はないよ」

 

 「わかりました。で、それをどう。料理”したらいいですか。やっぱり、いままでのノウハウの応用ですか」

 

 「そう。簡単だよ。まず社会面から短い記事を一つ選ぶ。読み終えるのに二分くらいかかる長さのものが適当だな。それをひととおり大きい声で朗読する。このときだれかに読み聞かせるようなつもりで読むのがいい。何度も読んでいるうちに、内容を自然に覚えてしまうはずだ。そうしたら、こんどは新聞を見ないで、やはりだれかに説明するようにして暗唱する。思い出せない部分はいったん適当な言葉で埋めて、とにかく最後まで読みつづけるようにする」

 

「書き取りのときに、わからない単語は適当なスペルで埋めて先へ進行のと同じですね」

 

「そう。それで読み終えたら、あとで、その思い出せない部分を記事で確認する。確認できたら、再び最初から読み直して、全体を流暢に話せるようになるまで、それをくり返す1以上を新聞のすべての記事について行うんだ。一日に四~五時間ずつ時問を割いたとして、一か月くらいで終わるはずだよ」

 

 「なるほど。その方法なら、ぽんとうの英語のベテランになれそうですね。新聞には社会のおりとあらゆる話題が詰よっていますから。でも、意味のわからない単語が出てきた場合、どう処理したらいいですか」

 

 「あ、それをいい忘れていたな。意味のわからない単語については、新聞一面分を終えるまでは、辞書を引かないのが原則だ。意味がわからないまま、ただ読むだけでいい。そして一面分を読み終えたら、その時点ではじめて単語の解明に入るようにする。方法は第三ステップと同じように、もちろん英英辞典を使って行う。つまり、意味のわからない単語は一面単位でまとめて解決していくわけだ」

 

『英語は絶対、勉強するな』チョン チャンヨン著 (定価1300円)より