原発性肝癌の診断・治療法:エタノール局注療法、肝動脈塞栓化学療法など

(1)臨床所見と診断

 原発性肝癌の約90%が肝細胞癌であり、残りの10%が胆管細胞癌・その他である。ここでは肝細胞癌(以下肝癌)に対する治療について述べる。肝癌の基礎疾患として約90%に肝硬変(一部慢性肝炎)を伴っており、これらの慢性肝疾患の綿密な経過観察により2cm以下の細小肝癌が多数発見されるようになった。自覚症状として、かなり大きくなって発見されれば、腹痛・発熱・全身倦怠感・腹満感などが現れる。しかし、細小肝癌ではほとんど無症状なのが普通である。

 診断は腫瘍マーカーと画像診断が早期診断の決め手である。腫瘍マーカーとしてαフェトプロテイソ(AFP)およびPIVKAIIが用いられる。画像診断は超音波検査を中心にCT、血管造影、 MRIなどによって行う。細小肝癌の診断にはエコー下肝生検が役立つ。

 (2)治療

 肝癌の治療法には次のようなものがある。

 a)エタノール局注療法

 b)肝動脈塞栓化学療法

 c)手術療法

 d)温熱療法

 e)放射線療法

 f) 動注化学療法

 g)免疫化学療法

 h)全身化学療法

 肝癌の治療は癌の大きさと基礎疾患の肝硬変の程度に左右される。 3 cm以下の肝癌では超音波誘導下のエタノール局注療法、または手術が行われる。3cm以上の肝癌では血管造影後に肝動脈塞栓療法が行われるか、手術が選択される。大きな肝癌に対しては、温熱療法や放射線療法、免疫療法、化学療法が行われる。

 エタノール局注療法(PEIT percutaneous ethanol injection therapy):純エタノールに局所麻酔剤を10%ほど混ぜ、超音波誘導下に細径針で癌部に局注し、癌細胞を凝固壊死させる治療法である。副作用として局所の軽度の疼痛と、一過性のめいてい感がある。効果は確実で、予後は手術療法に匹敵する。

 肝動脈塞栓化学療法(TAE/TACE transcatheter arterial embolization/chemoembolization):塞栓物質としてゼラチンスポンジ(スポンゼルまたはゲルフォーム)に抗癌剤を含ませて、選択的に肝動脈を塞栓する。あるいは、抗癌剤を油性造影剤であるリピオドールと混和して動注し、その後ゼラチンスポンジで塞栓する方法も行われる。

 抗癌剤としては、塩酸ドキソルビシソ(アドリアマイシンADR…アドリアシソ(R)やマイトマイシンc (MMC…マイトマイシンが常用されるが、最近では心毒性の少ない塩酸エピルビシソ(ファルモルビシンFARM)が開発された。FARMは心筋障害や心電図変化が少ないなどADRより心毒性が軽減されている。使用量は通常ADR 20~40mg/㎡、 MMCは5~15mg/nf、 FARM 40~60mg/㎡であるが、併用の場合は少なめにあるいは肝硬変の状態により使用する。抗癌剤と混合するリピオドールの量は腫瘍のサイズによるが約3~5㎡が最も多く、肝硬変の程度がひどい場合は減量するか使用しない。また、シスプラチン(CDDP・‥ラソダ、ブリプラチソ⑩)の粉末と油性造影剤であるリピオドールとのエマルジョンを動注する治療も報告されている。肝動脈塞栓療法の副作用としては、塞栓による腹痛、発熱、胆嚢炎などがある。腫瘍の壊死の程度により3ヵ月に1回反復施行する。

 動注化学療法:現在血管造影時に抗癌剤を注入する方法と、皮下埋め込みリサーバーを用いる方法がある。皮下埋め込みリサーバーは、カテーテル先端を肝動脈に留置し、挿入部を皮下に埋め込む。注入部から間欠的にかつ選択的に抗癌剤を注射針で経皮的に注入する方法であり、外来治療が可能なため、患者のQuality of life の向上に寄与している。リサーバーを用いる場合は2W~4Wに1回動注するが、血管造影下では3ヵ月に1回施行する。薬剤としてはADR、 MMC、 FARMを塞栓化学療法の場合と同量動注する。間欠的に動注するので副作用は一過性の消化器症状が主であるが、頻回に施行する場合には心筋障害・骨髄抑制・脱毛などの副作用に注意する必要がある。

 全身化学療法:肝癌の腫瘍径が大きくPEIT、 TAE、手術療法など積極的な治療ができない場合には全身化学療法を行う。肝癌に対する全身化学療法は古くから種々の抗癌斉りで検討されているが、消化管の癌に比して有効率が低い。現在使われている抗癌斉Uは、 ADR、 MMC、 5-FU (5-Fluorouracil)であり、単剤投与または多剤併用療法が行われている。多剤併用療法は各組み合わせとも5~20%程度の有効率であり、さしたる効果は期待できない。