子宮頸癌の臨床病期分類と補助化学療法

1.子宮頸癌の臨床進行期分類

 癌の治療成績の向上のためには、治療法と治療成績の各施設間の正確な対比が必要である。そのためには、その癌の診断、分類その他の取り扱いなど八共通の基盤に立って卜ることが前提となる。

 臨床進行期分類は治療法の決定に際し最も基本となるものであり、日本産婦人科学会では国際的な比較を可能にするためFIGO (Federation Internationale de Gynecologie et d'Obstet rique)の国際臨床進行期分類を採用している。

2.子宮頸癌に対する薬物療法

 本邦では子宮頸癌の主な治療法は手術療法および放射線療法である。原則として0期~Ⅱ期までの頸癌治療のfirst choice は手術療法であり、Ⅲ、Ⅳ期症例に対しては放射線療法が選択される。

 教室では、婦人科がん化学療法共同研究会による子宮頸癌化学療法(第5次)のプロトコールにしたがって頸癌の化学療法を施行して卜る。本プロトコールの一般研究は、補助化学療法群(adjuvant chemotherapy)および寛解導入療法群(induction chemotherapy)の二群より構成されている。

 1)補助化学療法群

 補助化学療法は、初期治療(手術療法あるいは放射線療法)によって寛解導入に至った症例における潜在性徴小遺残癌巣のtotal cell kill を目指すことにより、再発防止を目的とする療法である。一般に抗癌剤は増殖期にある癌細胞群(cell cycle を回転し分裂増殖を繰り返している癌細胞集団)にしか作用しない。ところが寛解導入後の潜在性微小遺残癌巣においては休止期(非分裂相)にある癌細胞群の占める割合が増大し、逆に増殖期(抗癌剤が作用点を持つ)にある癌細胞の割合が低下しているため、短期間の抗癌剤投与ではその効果はあまり期待できない。癌細胞のtotal cell kill を目指すためには、長期間にわたる抗癌剤の連続投与が必要となってくる。このような長期連続投与には、在宅のままで経口摂取が可能な副作用の軽微な抗癌剤が適しており、代謝拮抗物質である5 Fluorouracil(5 FU)、 Tegafur(FT - 207)、 UFTあるいはアルキル化剤であるCyclophosphamide (CPA)、Carboquone (CQ)などが挙げられる。

 現在教室で実施している補助化学療法群の対象は、

 a)h期、11期の根治手術例で術後照射例

 b)h期、II期、Ⅲ期、Ⅳa期の照射施行例で手術非施行例で、それぞれの対象群について患者または家族の同意が得られている症例に限り、シソフィラソ(SPG)とフッ化ピリミジン(5-FU or UFT)併用投与の有用性についての検討を行うことを目的としている。治療法の割付は封筒法にて不等無作為化割付(割付比は、薬剤非投与群1:薬剤投与群2)により行っている。

 5-FUは、 1957年Heidelbergerらにより合成されたピリミジン拮抗物質のひとつである。5-FUの作用機序としてDNA合成阻害およびRNAの代謝異常が知られている。 5-FU はuracilと同様の経路でリン酸化されFdUMP (5-fluorodeoxyuridine、 5' - monophosphate)となり、 DNA合成の律速酵素のひとつであるdTMP synthase (チミジル酸合成酵素、TS)を阻害することにより、 DNA合成をm害する。またRNAの代謝異常に関しては、 rRNAの合成m害およびmRNAの転写異常などが報告されているが、 5 FUの抗癌効果がDNA合成阻害あるいはRNA代謝異常のどちらによるものであるかについてはまだ不明な点が多い。

 FT -207は1966年Hillerらにより最初に合成された5 FUのmasked compoundである。FT - 207は主に肝マイクロソームの電子伝達系P-450により活性型の5 FUに転換され、抗癌作用を発揮する。 FT - 207は経口投与が可能で特に造血系に対する副作用が軽微で安全域が比較的広いため、長期連続投与に適している。

 UFTはFT - 207 とuracilとの配合剤で、 FT 207の活性代謝物である5-FUの不活性化をuracilが拮抗的に阻害するため正常組織より高い腫瘍内5-FU濃度を維持する特徴を有する5)。副作用については、食欲不振、悪心嘔吐、全身倦怠感および下痢など消化器症状が主なもので、重篤な骨髄障害や肝機能および腎機能障害は認められていない。

 シゾフィラン(SPG)はBRM (Biological Response Modifiers)の一種で、スエヒロタケの菌糸体の培養ろ液を処理することによって得られる分子量450、000の抗腫瘍多糖体である。放射線療法の効果を増強させる作用のあることが子宮頸癌において報告されている。