メタ文としての論理関係明示子

 メタ文について説明するためには、最初に対象文について説明しておかねばならない。対象文とは、世界―この言葉で何か考えられてもよい―内のもろもろの対象について述べる文のことである。たとえば、「このボールペンは書きやすい。」とか「この消しゴムはだいぶ小さくなってきた。」といった文は、私の身の回りの品々について言及している対象文である。また、たとえば「地球は約四十億年前に誕生した。」という文は、地球という対象に言及している対象文である。これに対してメタ文とは、たとえば、「『このボールペンは書きやすい。』という文は、日本語の文である。」といった文のように、文について述べている文である。対象文とメタ文とでは、言語の階層が異なるのである。メタ文は、対象文よりも一段階高い階層に属している。

 さらに説明を加えるならば、対象文が属する言語は対象言語と呼ばれ、メタ文が属する言語はメタ言語と呼ばれる。たとえば、英語が外界の対象について語るために用いられているときは、それは対象言語として用いられているわけであり、その英語の特徴や文法的構造について日本語で説明がなされるときには、日本語はメタ言語として用いられているわけである。もちろん、対象言語とメタ言語とは、同一の言語に属してもかまわない。「『このボールペンは書きやすい。』という文は、日本語の文である。」という例で示したように、対岸言語もメタ言語も日本語であってよいのである。一般に、われわれが言語について議論するとき、議論の対象とされる言語は対象言語となり、議論する際に用いている言語がメタ言語となる。メタ言語は高次言語と呼ばれることもある。メタ言語を対岸言語扱いして語る言語は、メタメタ言語と呼ばれる。

 対象言語とメタ言語の区別をはっきりと理解するとよいだろう。

 さて、対象文とメタ文についての説明が思いのほか長くなってしまった。実は、これら二つの区別は、うそつきのパラドックスのようなパラドックスを解消し、意味論的真理論と呼ばれる真理論を打ち立てるために、決定的に重要な役割をはたしたという歴史的背景をもった重要な区別なのである。

 歴史的な経緯には深く立ち入らずとも、対象文とメタ文の区別は、決定的に重要な区別である。対象文は基本的に、世界の事物について叙述したり議論したりするのに対し、メタ文はそうした対象文について解説したり、性格規定を行なったりするという役割をはたしているのである。したがってメタ文は、パラグラフあるいは文を解読していくうえで重要な手がかりとなる。われわれが目にする現実の文章の中においては、メタ文がそれとして明確な姿をとっていない場合もあるし、また書き手によっては、そもそも対象文とメタ文の区別をなし得ていない者もいる。したがってメタ文を兄抜くことが、実際に文章を読んでいくうえでは垂要となる。

『読み書きの技法』小河原誠著より