絨毛性疾患:全胞状奇胎と部分胞状奇胎

 絨毛性疾患とは、胞状奇胎、絨毛癌および存続絨毛症の総称である。

 したがって、これには部分胞状奇胎のように予後のよるものと、予後の悪い絨毛癌が含まれることになる。

 最近では出生率の低下にともなって、絨毛性疾患の罹患率も低下傾向にある。これに加えて、胞状奇胎の診断や管理体制の進歩によって、絨毛性疾患の予後は全体として著しく改善された。

 しかし、絨毛癌や存続絨毛症に対する化学療法のあり方などをめぐってぱ、依然としてホットな議論が続いて卜る。

             胞状奇胎の発生
 胞状奇胎は全胞状奇胎と部分胞状奇胎に分けられる。

 全胞状奇胎は、すべての絨毛が肉眼的に嚢胞化(2皿以上)しているものである。

 また部分胞状奇胎は、一部の絨毛が嚢胞化しているもの、または胎芽ないし胎児あるいは臍帯を認める場合は肉眼的に全ての絨毛が嚢胞イ匕していても部分胞状奇胎とする、と定義されている。

 このように定義された全胞状奇胎と部分胞状奇胎は、胞状奇胎としてひとっにくくられているが、実はこの両者の発生過程は全く違うのである。

 全胞状奇胎は、すべての染色体が父親由来で、核型はほとんどすべて正常女性型を示す。これに対して、部分胞状奇胎では父母双方からのゲノムを保有している。しかも大部分が2精子受精などによる3倍体妊娠であるとされている。

 全胞状奇胎と部分胞状奇胎を合わせた、胞状奇胎全体の頻度は、出生数1、000に対して2.5程度であろうと推定されている。この率そのものぱ十数年来変わらないが、胞状奇胎全体の中で占める部分胞状奇胎の割合は、近年50%あるいはそれ以上といった高い値を示し続けている。

卵巣がんの早期発見:嚢胞性腫瘍と充実性腫瘍

 卵巣はもともと、3~4cm径、5g程度のものであり、これが、がん化してテュスボール大くらいになっても、自覚症状はないのが普通である。しかし、発生したがんが、カプセルに被われたままでいればよいが、もし外向性に発育したとすれば、この程度の大きさでも、ほぼ間違いなく腹腔内への転移をきたすであろうことは十分に想像できる。

 このように自覚症状に乏しいことが、卵巣がんの早期診断をきわめて困難にしている原因となっている。卵巣がんがsilent killer といわれるゆえんである。

 最近は、 CA125、 CA199、 CEAなどの腫瘍マーカーを組み合わせて用いることによって、卵巣がんを非常に高い精度で診断できるようになった。

 しかし、自覚症状のない30歳以上の婦人の0. 3%程度にしか卵巣腫瘍が触診できず、この中の1 /10程度が悪性であろうと推測される状況では、集検のレベルでこのような腫瘍マーカーを用いることにも問題がある。

 卵巣にはがんだけが発生するわけではないことはいうまでもない。

 それどころか、卵巣にこそ他の臓器とは比較にならないほど、多種多彩な腫瘍が発生する。これを発生母組織と腫瘍の良性、悪性とによって分類したものがある。

 この中で、上に述べた、いわゆる卵巣がんと呼んでいるものは、表層上皮性一間質性由来の悪性腫瘍である。

 発生母組織別の腫瘍の頻度をみると、表層上皮性・間質性腫瘍が全体の75%を占め、次いで胚細胞由来のものが20%、そして残りの5%が性索間質性、つまり顆粒膜あるいは莢膜細胞由来ということになる。

 卵巣に腫瘤が触れる患者は、外来患者の2~3%程度である。

 卵巣に腫瘤があると、まず超音波断層法によってその大きさ・性状などを調べることになる。

 腫瘤の内容が均一の水様性のものだけで、腫瘤の壁がきれいに一層でたどれるものを嚢胞性腫瘍という。これに対して、腫瘤全体が充実性であったり、内容の大部分は水様性であるが一部充実性であるなどのものを一括して充実性腫瘍という。

 卵巣腫瘤の80%近くは嚢胞性であり、残りが充実性であるとされている。ごく大まかにいって充実性腫瘍の70~80%は、悪性であると考えてまい。

 年齢的にみれば、20歳以下(もちろん中学生や小学生も含まれる)の充実性の卵巣腫瘍と、比較的高齢者(40歳以上)の充実性腫瘍とは悪性のものである確率が高いと考えるべきである。前者では胚細胞由来のものが大部分であり、後者では表層上皮性・間質性の悪性腫瘍が主体をなす。

 もちろん、充実性の腫瘍の中には、髪の毛や歯や皮膚組織などを含む(皮様嚢胞胚)良性のものもある。いうまでもなく、最終的な診断は、摘出した腫瘍の組織学的検査によって行うことになる。

                治療方針

 手術療法を第一選択とする。これは腫瘍を摘出するために行うのであるが、もし完全に摘除できないことが予測されても開腹するのが原則である。それは、手術によって腫瘍を可能な限り縮小することを試みることと、もしそのような試みさえも全く不可能であっても、少なくともその腫瘍の組織診断だけはして置きたいからである。

 術後の組織診で、卵巣がんであることが確められたものには、特定のスケジュールで治療を行う。思学療法の第一選択としてCAP療法(Cyclophosp-hamide、 Adriamycin、 Cisplatin)を行っている。

卵巣癌の罹患率と死亡率:進行度と死亡率の関係

 卵巣がんは、子宮頸がんや子宮体がんなどにくらべて、予後が不良である。

 手術によってがん病巣が完全に取り切れたものの予後は決して不良ではない。しかし、残念ながら、このようなものは全体の25%にも達しない。

 したがって、冒頭の言葉を正しく言い直せば、現在治療している大部分の卵巣がんは、発見されたときに、すでに手遅れになっているので、この疾患の予後が全体として悪くなっているのである、ということになる。

 わが国の卵巣がんの年間罹患率は、全世界的には最も低い部類に属し、人口10万当たり4~5程度であると推定されている。これに対して北欧諸国での罹患率は最も高く、約20/人口10万であるので、日本人の卵巣がん罹患率はこれらの国の罹患率の1/5程度ということになる。

 わが国の卵巣がん患者実数は、年間約6、000人位であろうと考えられている。これを年次推移でみると、 1970年頃には1、700人であったものが、 1980年には3、500人になり、そして1990年の推定患者数が上記した約6、 000人というふうに、卵巣がん患者は漸次増加しつっある2)。

 一方、卵巣がんによる死亡数は約3、200である。したがって、単純にいえば、卵巣がん患者の60%以上が死亡するということになる。

 これを他の婦人科がんの場合と比較すれば、例えば子宮頸がんでは30%程度であり、子宮体がんの場合は10%程度であるので、卵巣がんの死亡数/罹

          卵巣がんの進行度と死亡率

 がんの予後を左右する因子はいくつかあるが、最も重要なものはがんの拡がりである。がんの拡がりは、臨床進行期で表現される。

 ごく大まかにいって、手術によって病巣の大部分が摘除できるものは、1期とB期の一部分である。

 一方、卵巣がん患者の進行期別の分布をみると、 I、 I、ⅢおよびⅣ期の占める割合は、それぞれ38.2、 16.2、 34.0および11. 6%となる。

 数年前に調査したところによると、卵巣がん病巣が肉眼的に完全に摘除できたものの予後(5年生存率)は、 85%にも達する。しかし、病巣の完全摘除が不可能な症例は、その後に種々の化学療法などを併用しても、その予後は20%程度あるいは、それ以下になってしまう。

 残存病巣の大きいものの予後が、小さいものの予後よりも悪いことは当然であるが、概して病巣の大きさを2cm径程度よりも小さくできない場合の予後は不良であるといってよい。

 卵巣がん患者の約60%が死亡するということはすでに述べたが、この数値は丁度卵巣がん患者の進行期分布でl期以上のものの占める割合とほぼ同じである。

 これと、調査成績を合わせて考えれば、現在の卵巣がん死亡率の高い原因は、取りも直さず、手遅れのがんの治療に終始していることにある、といることになる。

子宮体癌の補助化学療法、寛解導入療法

1.子宮体癌の臨床進行期分類

 頸癌と同様体癌に関しても、臨床進行期分類は治療法の決定に際し最も基本となるものであり、日本産科婦人科学会では国際的にも通用する基準としてFIGOによる国際臨床進行期分類を採用している。

2.子宮体癌に対する薬物療法

 体癌治療の原則は手術療法である。即ち、0期~Ⅲ期までの体癌治療のfirst choice は手術療法であり、Ⅳ期および再発症例に対しては放射線療法あるいは薬物療法が選択される。特に遠隔転移を伴う進行期症例や再発症例における薬物療法の持つ意義は非常に重要である。頸癌同様体癌においても、補助化学療法と寛解導入療法の二法がある。

 1)補助化学療法

 体癌におる補助化学療法の目的は頸癌と同様である。教室で施行している体癌の治療。予後良好のO期および癌浸潤が筋層1/3以内のG、症例以外は全て、寛解導入後5-FUまたはUFTによる補助化学療法を施行している。

 2)寛解導入療法

 手術および放射線療法はあくまでも局所療法であるため、すでに遠隔転移を示すⅣb期症例・再発症例等の癌が全身疾患となった症例に対しては、抗癌剤による全身療法としての化学療法が不可欠である。体癌における寛解導入療法の理論や考え方は頸癌の場合と同様である。

 婦人科がん化学療法共同研究会では、体がん第三次研究(症例のエントリー期間は平成元年12月から平成3年11月の2年間であった)を施行中である鵈そのプロトコールを示した。

 1958年Babcockら、 Salaらにより合成されたMedroxyprogest-erone acetate (MPA、酢酸メドロキシプロゲステロン)は、強力な黄体ホルモン作用を有するステロイドホルモンである。子宮体癌に対するホルモン療法としてMPAが用いられているが、その主な作用機序としてはプロゲステロンによる癌細胞の機能的分化の促進およびDNA、 RNAに対する直接的な合成m害等が考えられている。副作用として重篤な動・静脈血栓症の発現が報告されており、定期的な凝固機能のチェックが不可欠である。

 子宮頸癌および体癌における薬物療法の理論と実際について、現在教室で施行して卜る婦人科がん化学療法共同研究会によるプロトコールに沿って解説を進めた。同研究会による全国規模での治療成績の成果が期待される。

子宮頸がんの寛解導入療法群:CPAは幅広い抗腫瘍スペクトラムを有し副作用も比較的軽微

 手術および放射線療法はあくまでも局所療法(病巣が一部に限局している症例に適応)であり、すでに遠隔転移を示すⅣh期のような進行症例や再発症例には十分な治療効果は期待できない。このような全身疾患の状態を呈する進行・再発症例に対しては全身療法と七ての抗癌剤による化学療法が必要となり、寛解導入療法と呼ばれている。

 的確な抗癌剤感受性試験により選択された抗癌剤を投与するならその薬剤単独でも良好な治療効果が予測されるが、優れた感受性試験がまだ確立されていない現在、単剤投与よりもむしろ多剤併用療法が広く行われている。組み合わせる併用抗癌剤はそれぞれの抗癌剤単独で感受性が存在することが必要で、作用機序が異なっていることが望ましい。また副作用はそれぞれ重複しないように組み合わせることにより、重篤な副作用の発現が回避できる。このようにして数種の抗癌剤を組み合わせることにより抗癌スペクトラムが広くなり相乗効果が期待でき、薬剤耐性の発現を抑制できる可能性がある。

 現在教室で実施している寛解導入療法群の対象は、再発例、Ⅳb期または放射線治療後の腫瘍残存例で、患者または家族の同意が得られている症例に限り、5つの療法の中から1つを自由選択し施行している。これらの療法はCDDPを中心とした多剤併用療法でCDDPの効果が果たす役割は大きい。

 1965年Rosenbergらにより初めてその抗腫瘍性が発見されたCisplatin(CDDP、)は、非セミノーマ性睾丸腫瘍、膀胱癌、卵巣癌などに対する有効性が報告されており、頸癌治療においてもその効果が期待されている。CDDPの構造を示したが、塩素原子とアンモニア基は同一平面上にあり中心のプラチナ原子に対してシスの位置で錯塩を形成している。従来の抗癌剤とは異なったタイプの無機錯化合物で、 DNA鎖の塩基と結合し架橋を形成することにより殺細胞効果を示す。殺細胞作用は細胞周期相に非特異的で、その効果は濃度依存性である。 CDDP の主な副作用として、白血球減少・血小板減少等の骨髄機能障害、悪心・嘔吐等の消化器障害および腎機能障害等がみられる。特に重篤な腎機能障害はDLF (Dose L-imiting Factor)となり投与を中止しなければならない場合がある。 CDDPの誘導体であるCarboplatinは新しく開発された抗癌剤で、 CDDPと同等の抗腫瘍作用を有しかつ副作用(腎機能障害、消化器障害)が軽減されている。

 Cyclophosphamide (CPA)およびIfosfamideはともにアルキル化剤で、特にCPAは幅広い抗腫瘍スペクトラムを有し副作用も比較的軽微で投与も容易なため広く臨床で用いられている。

 Mitomycin C (MMC)、 Peplomycin sulfate (PEP)およびDoxor-ubicin hydrochloride (DXR)は抗癌性抗生物質に分類される。PEPはBleomycin (BLM)の誘導体で、抗腫瘍スペクトラムおよび効果はBLMと同等であるが、 BLMの副作用である肺線維症がPEPにおいては軽減されている。

 DXRは抗腫瘍スペクトラムが造血器腫瘍、固形腫瘍と広範囲におよび広く臨床に用いられている。しかし、副作用である心毒性および脱毛の発現が臨床上大きな問題点であるためこれを解決すべく新規に開発された誘導体がEpirubicin hydrochloride とPirarubicinである。両薬剤ともに心毒性が軽減されているが、特にEpirubicin hydrochloride においては有意に低い。またPirarubicinでは脱毛は軽微で臨床上使いやすい薬剤と考えられる。抗腫瘍効果に関しては両薬剤ともDXRと比較してほぼ同等と考えられる。

 Etoposideはメギ科の多年草植物 Podophyllum emodi の根茎から抽出したPodophyllotoxinの半合成配糖体である。作用機序としてはDNA合成阻害を示し、トポイソメラーゼUの活性を阻害する。

子宮頸癌の臨床病期分類と補助化学療法

1.子宮頸癌の臨床進行期分類

 癌の治療成績の向上のためには、治療法と治療成績の各施設間の正確な対比が必要である。そのためには、その癌の診断、分類その他の取り扱いなど八共通の基盤に立って卜ることが前提となる。

 臨床進行期分類は治療法の決定に際し最も基本となるものであり、日本産婦人科学会では国際的な比較を可能にするためFIGO (Federation Internationale de Gynecologie et d'Obstet rique)の国際臨床進行期分類を採用している。

2.子宮頸癌に対する薬物療法

 本邦では子宮頸癌の主な治療法は手術療法および放射線療法である。原則として0期~Ⅱ期までの頸癌治療のfirst choice は手術療法であり、Ⅲ、Ⅳ期症例に対しては放射線療法が選択される。

 教室では、婦人科がん化学療法共同研究会による子宮頸癌化学療法(第5次)のプロトコールにしたがって頸癌の化学療法を施行して卜る。本プロトコールの一般研究は、補助化学療法群(adjuvant chemotherapy)および寛解導入療法群(induction chemotherapy)の二群より構成されている。

 1)補助化学療法群

 補助化学療法は、初期治療(手術療法あるいは放射線療法)によって寛解導入に至った症例における潜在性徴小遺残癌巣のtotal cell kill を目指すことにより、再発防止を目的とする療法である。一般に抗癌剤は増殖期にある癌細胞群(cell cycle を回転し分裂増殖を繰り返している癌細胞集団)にしか作用しない。ところが寛解導入後の潜在性微小遺残癌巣においては休止期(非分裂相)にある癌細胞群の占める割合が増大し、逆に増殖期(抗癌剤が作用点を持つ)にある癌細胞の割合が低下しているため、短期間の抗癌剤投与ではその効果はあまり期待できない。癌細胞のtotal cell kill を目指すためには、長期間にわたる抗癌剤の連続投与が必要となってくる。このような長期連続投与には、在宅のままで経口摂取が可能な副作用の軽微な抗癌剤が適しており、代謝拮抗物質である5 Fluorouracil(5 FU)、 Tegafur(FT - 207)、 UFTあるいはアルキル化剤であるCyclophosphamide (CPA)、Carboquone (CQ)などが挙げられる。

 現在教室で実施している補助化学療法群の対象は、

 a)h期、11期の根治手術例で術後照射例

 b)h期、II期、Ⅲ期、Ⅳa期の照射施行例で手術非施行例で、それぞれの対象群について患者または家族の同意が得られている症例に限り、シソフィラソ(SPG)とフッ化ピリミジン(5-FU or UFT)併用投与の有用性についての検討を行うことを目的としている。治療法の割付は封筒法にて不等無作為化割付(割付比は、薬剤非投与群1:薬剤投与群2)により行っている。

 5-FUは、 1957年Heidelbergerらにより合成されたピリミジン拮抗物質のひとつである。5-FUの作用機序としてDNA合成阻害およびRNAの代謝異常が知られている。 5-FU はuracilと同様の経路でリン酸化されFdUMP (5-fluorodeoxyuridine、 5' - monophosphate)となり、 DNA合成の律速酵素のひとつであるdTMP synthase (チミジル酸合成酵素、TS)を阻害することにより、 DNA合成をm害する。またRNAの代謝異常に関しては、 rRNAの合成m害およびmRNAの転写異常などが報告されているが、 5 FUの抗癌効果がDNA合成阻害あるいはRNA代謝異常のどちらによるものであるかについてはまだ不明な点が多い。

 FT -207は1966年Hillerらにより最初に合成された5 FUのmasked compoundである。FT - 207は主に肝マイクロソームの電子伝達系P-450により活性型の5 FUに転換され、抗癌作用を発揮する。 FT - 207は経口投与が可能で特に造血系に対する副作用が軽微で安全域が比較的広いため、長期連続投与に適している。

 UFTはFT - 207 とuracilとの配合剤で、 FT 207の活性代謝物である5-FUの不活性化をuracilが拮抗的に阻害するため正常組織より高い腫瘍内5-FU濃度を維持する特徴を有する5)。副作用については、食欲不振、悪心嘔吐、全身倦怠感および下痢など消化器症状が主なもので、重篤な骨髄障害や肝機能および腎機能障害は認められていない。

 シゾフィラン(SPG)はBRM (Biological Response Modifiers)の一種で、スエヒロタケの菌糸体の培養ろ液を処理することによって得られる分子量450、000の抗腫瘍多糖体である。放射線療法の効果を増強させる作用のあることが子宮頸癌において報告されている。

子宮(頸・体)癌細胞の細胞回転と抗癌剤の作用点

 子宮癌は子宮に原発する上皮性悪性腫瘍で,本邦における婦人科悪性腫瘍のうち約90%を占めている。解剖学的に子宮頸部に発生する子宮頸癌と,子宮体部に発生する子宮体癌に分類される。本邦における両者の発生頻度の比率は,子宮頸癌の方が高く約90%を占め,子宮体癌は子宮癌全体の約10%を占めている。しかし近年食生活の欧米化などに伴い,子宮体癌の発生頻度は増加傾向にあると言われ注目されている。

 子宮頸癌および体癌の治療のfirst choice は,手術療法あるいは放射線療法であるが,最近これらに化学療法,免疫療法およびホルモン療法等の薬物療法を組み合わせた集学的治療が実施されつつある。特に進行症例や再発癌など全身疾患の状態となった癌患者に対しては,全身療法である薬物療法が第一選択となり,最近は新しい抗癌剤の開発も進みつっありその効果は大いに期待されている。

 癌細胞の細胞回転と抗癌剤の作用点との関係については,実際に化学療法を施行するにあたって非常に重要なポイントとなる。

 癌細胞の本質はその無制限,無秩序な細胞増殖を続けることにある。しかし,腫瘍を構成する癌細胞が常に増殖を繰り返しているわけではない。cell cycleを回転し分裂増殖をつづける細胞集団(proliferating compartent)はその一部分で,それ以外はcell cycle を回転することなく非分裂相にある細胞集団(non - proliferating compartment)で占められてしる。

 現在使用されて卜る抗癌剤は全てその作用点は細胞周期のいずれかの期に存在し,非分裂相にある細胞には抗癌剤は作用しないとされて卜る。抗癌剤がその効果を発揮するためには癌細胞が増殖期にあり, cell cycle を回転していることが必要条件となる。さらに個々の癌に対してそれぞれ感受性を持った抗癌剤を選択投与することが必要である。いまだ臨床に応用できる優れた抗癌剤感受性試験が確立されていないのが現状である。