卵巣癌の罹患率と死亡率:進行度と死亡率の関係
卵巣がんは、子宮頸がんや子宮体がんなどにくらべて、予後が不良である。
手術によってがん病巣が完全に取り切れたものの予後は決して不良ではない。しかし、残念ながら、このようなものは全体の25%にも達しない。
したがって、冒頭の言葉を正しく言い直せば、現在治療している大部分の卵巣がんは、発見されたときに、すでに手遅れになっているので、この疾患の予後が全体として悪くなっているのである、ということになる。
わが国の卵巣がんの年間罹患率は、全世界的には最も低い部類に属し、人口10万当たり4~5程度であると推定されている。これに対して北欧諸国での罹患率は最も高く、約20/人口10万であるので、日本人の卵巣がんの罹患率はこれらの国の罹患率の1/5程度ということになる。
わが国の卵巣がん患者実数は、年間約6、000人位であろうと考えられている。これを年次推移でみると、 1970年頃には1、700人であったものが、 1980年には3、500人になり、そして1990年の推定患者数が上記した約6、 000人というふうに、卵巣がん患者は漸次増加しつっある2)。
一方、卵巣がんによる死亡数は約3、200である。したがって、単純にいえば、卵巣がん患者の60%以上が死亡するということになる。
これを他の婦人科がんの場合と比較すれば、例えば子宮頸がんでは30%程度であり、子宮体がんの場合は10%程度であるので、卵巣がんの死亡数/罹
卵巣がんの進行度と死亡率
がんの予後を左右する因子はいくつかあるが、最も重要なものはがんの拡がりである。がんの拡がりは、臨床進行期で表現される。
ごく大まかにいって、手術によって病巣の大部分が摘除できるものは、1期とB期の一部分である。
一方、卵巣がん患者の進行期別の分布をみると、 I、 I、ⅢおよびⅣ期の占める割合は、それぞれ38.2、 16.2、 34.0および11. 6%となる。
数年前に調査したところによると、卵巣がん病巣が肉眼的に完全に摘除できたものの予後(5年生存率)は、 85%にも達する。しかし、病巣の完全摘除が不可能な症例は、その後に種々の化学療法などを併用しても、その予後は20%程度あるいは、それ以下になってしまう。
残存病巣の大きいものの予後が、小さいものの予後よりも悪いことは当然であるが、概して病巣の大きさを2cm径程度よりも小さくできない場合の予後は不良であるといってよい。
卵巣がん患者の約60%が死亡するということはすでに述べたが、この数値は丁度卵巣がん患者の進行期分布でl期以上のものの占める割合とほぼ同じである。
これと、調査成績を合わせて考えれば、現在の卵巣がん死亡率の高い原因は、取りも直さず、手遅れのがんの治療に終始していることにある、といることになる。