子宮頸がんの寛解導入療法群:CPAは幅広い抗腫瘍スペクトラムを有し副作用も比較的軽微

 手術および放射線療法はあくまでも局所療法(病巣が一部に限局している症例に適応)であり、すでに遠隔転移を示すⅣh期のような進行症例や再発症例には十分な治療効果は期待できない。このような全身疾患の状態を呈する進行・再発症例に対しては全身療法と七ての抗癌剤による化学療法が必要となり、寛解導入療法と呼ばれている。

 的確な抗癌剤感受性試験により選択された抗癌剤を投与するならその薬剤単独でも良好な治療効果が予測されるが、優れた感受性試験がまだ確立されていない現在、単剤投与よりもむしろ多剤併用療法が広く行われている。組み合わせる併用抗癌剤はそれぞれの抗癌剤単独で感受性が存在することが必要で、作用機序が異なっていることが望ましい。また副作用はそれぞれ重複しないように組み合わせることにより、重篤な副作用の発現が回避できる。このようにして数種の抗癌剤を組み合わせることにより抗癌スペクトラムが広くなり相乗効果が期待でき、薬剤耐性の発現を抑制できる可能性がある。

 現在教室で実施している寛解導入療法群の対象は、再発例、Ⅳb期または放射線治療後の腫瘍残存例で、患者または家族の同意が得られている症例に限り、5つの療法の中から1つを自由選択し施行している。これらの療法はCDDPを中心とした多剤併用療法でCDDPの効果が果たす役割は大きい。

 1965年Rosenbergらにより初めてその抗腫瘍性が発見されたCisplatin(CDDP、)は、非セミノーマ性睾丸腫瘍、膀胱癌、卵巣癌などに対する有効性が報告されており、頸癌治療においてもその効果が期待されている。CDDPの構造を示したが、塩素原子とアンモニア基は同一平面上にあり中心のプラチナ原子に対してシスの位置で錯塩を形成している。従来の抗癌剤とは異なったタイプの無機錯化合物で、 DNA鎖の塩基と結合し架橋を形成することにより殺細胞効果を示す。殺細胞作用は細胞周期相に非特異的で、その効果は濃度依存性である。 CDDP の主な副作用として、白血球減少・血小板減少等の骨髄機能障害、悪心・嘔吐等の消化器障害および腎機能障害等がみられる。特に重篤な腎機能障害はDLF (Dose L-imiting Factor)となり投与を中止しなければならない場合がある。 CDDPの誘導体であるCarboplatinは新しく開発された抗癌剤で、 CDDPと同等の抗腫瘍作用を有しかつ副作用(腎機能障害、消化器障害)が軽減されている。

 Cyclophosphamide (CPA)およびIfosfamideはともにアルキル化剤で、特にCPAは幅広い抗腫瘍スペクトラムを有し副作用も比較的軽微で投与も容易なため広く臨床で用いられている。

 Mitomycin C (MMC)、 Peplomycin sulfate (PEP)およびDoxor-ubicin hydrochloride (DXR)は抗癌性抗生物質に分類される。PEPはBleomycin (BLM)の誘導体で、抗腫瘍スペクトラムおよび効果はBLMと同等であるが、 BLMの副作用である肺線維症がPEPにおいては軽減されている。

 DXRは抗腫瘍スペクトラムが造血器腫瘍、固形腫瘍と広範囲におよび広く臨床に用いられている。しかし、副作用である心毒性および脱毛の発現が臨床上大きな問題点であるためこれを解決すべく新規に開発された誘導体がEpirubicin hydrochloride とPirarubicinである。両薬剤ともに心毒性が軽減されているが、特にEpirubicin hydrochloride においては有意に低い。またPirarubicinでは脱毛は軽微で臨床上使いやすい薬剤と考えられる。抗腫瘍効果に関しては両薬剤ともDXRと比較してほぼ同等と考えられる。

 Etoposideはメギ科の多年草植物 Podophyllum emodi の根茎から抽出したPodophyllotoxinの半合成配糖体である。作用機序としてはDNA合成阻害を示し、トポイソメラーゼUの活性を阻害する。