古典科学

 

 

  「古典科学」と呼ばれるべき形態の科学は古代ギリシャで生まれた。「具体の科学」はしばしば「神話的思考」と親和的であることがありうる。「神話的思考」とは海や川の水や雨水を天に住む龍す神す超人的人間のしわざにしたりするような思考法であるが、古代ギリシすのタレス以降の哲学的思考はそういった神話的思考の伝統と断絶した。タレス自身は「万物の始原は水である」と見なしたと言われる。このような思考法から、医学の父と崇められることのあるコスのヒッポクラテスの経験主義的医学が生まれた。また徹底して納得できる根拠を求める思考習慣は、理論的形態の数学を生みだした。その鍵となる概念は論証(ないし証明)である。最初に数学に論証概念をもちこんだのは、タレスであったという伝説もある。西洋的「合理主義」の源流はこういった思考形態に求められる。

 

 古典科学は主として、理論数学、ならびに経験的自然学とそれを基礎とした医学(ないし医術)という、大きく分類して二つの構成要素から成り立っているものと考えてよい。理論数学とは、議論の出発点としてまず諸原理’(定義、公理など)を置き、そこから探究中の命題が真であることを論証してゆくような形態の数学をいう。このようにいくつかの原理(簡約的に、公理と総称することがある)から演繹的に命題群を証明していってできた数学の体系を公理論的数学という。このような数学は、キオスのヒッポクラテスのころから体系づけられはじめ、ユークワットギリシャの原名はエウクレ千デス)によって編纂された『原論』で集大成された(紀元前三〇〇年ころ)。純粋数学は、離散量酋然数と考えて人過ない)についての理論的学科としての算術と、連統量(数直線から構成される)についての幾何学がらなる(『原論』を幾何学についての書とするのは単純な誤解で、算術をも含むことに注立されたい)。算術を応用した学科に音階学(音楽)がある。幾何学には平面幾何学と立休幾何学があり、天文学は後者の応用部門と見なされた。