大学院の質の高さ

  臨床医学系を除いたUCLAの生命科学系の教官(ファカルティ:Faculty)は約190名いる タマノイさんのいる微生物・分子遺伝学科、それに、細胞生物学科、生化学科、薬理学科などなどが含まれている。その生命科学系の各学科が一括して大学院生を入学させている 1学年の定員は約60名である。入学の競争率は3~4倍である。学生は9月に入学し、翌年の5月~6月に所属研究室を決める。その10ヵ月の闘、最低で3⊃、最高で4つ、1回2~3ヵ月、各研究室に仮所属して実験を学ぶ。各研究室は毎回、大学院生をO~3人受けって実験指導をすることになる。10~13人ではない。D~3人である。そして、この実験指導を受けた大学院生だけしか、その後の研究室配属で、自分の研究室を選んでくれない。しかし、1学年の大学院生が約60名なのに対して、教官側は約190名七いる。そして、どの教官も大学院生をほしがっている。従って、大学院生の取り合いになるそうだ。教官の質がいやがうえにも高まることになる。教授になっても“あがり”にならない

  最初、助教授(Assistant Professor)を採用すると5年間分の研究経費として、UCLAが約30万ドルを支給する。この5年間に自分でグラント(研究費、自分の給料も含む)をとらなければならない。それも、なるべく早く、自分でグラントをとらなくてはならない。支給された30万ドルをなるべく多く残すことも重要である。グラントをとれば、その何割かのお金が間接経費としてUC匚A大学当局に入る。UCLAが最初に支給してくれたお金の何倍も、その間接経費で返せるようにグラントをとるべきなのだという。

 助教授(Assistant Professor)の職階にステップ], 2, 3, 4と4段階あるけど、たいていの人はステップ3から始まる。だいたい2年でステップが1つあがる。

 準教授(Associate Professor)になるときにテニュア(日本語では終身在職権と翻訳されている)をとることになる。大きな審査があって、世界中の研究者から20通ぐらいの推薦書が必要となる。準教授(Associate Professor)にもステップ1、2、3とあって、だいたい途中で正教授(Full Professor)になる。なお、アメリカでは、助教授、準教授、正教授も全部、教授、つまり、プロフェッサーと呼称される。

 正教授になるときも大きな審査があって、世界中の研究者から20通の推薦書を必要とする。正教授になっでもステップ1 。 2, 3, 4, 5とあって、ステップがあがるごとに給料があがる。さらにステップ6にあがるときに大きな審査(推薦書の子紙20通が必要)があって、名前つきの正教授になる。 、この「名前つき」の具体的意味を尋ねそこねてしまった。ゴメン(‥;)。ステップフを通過後またはステップ8にあがるときに大きな審査(推薦書の手紙20通が必要)があって、00Pro↑essorとProfessorの前に何か特別の名前がつくProfessorになる。そして、定年はない。

 名誉教授(EmeritしJsPro↑essor)になっでも、大学にオフィスをもっていて、研究もし大学の運営にも関与している そういう人がノーベル賞をもらったりすることもある。例えば97年度の化学賞受賞者のボイヤー(P。ロ。日oyer)はUCLAの生化学の名誉教授である。そういう名誉教授は、大学にとってもメリットが大きい、

 「こういうふうに、正教授になっでもステップがあるので、教授になったら“あがり”という日本とは違い、いつもいつも精進することになるんだ」、とタマノイさん。

 「テニュアは終身在職権ですよネ。一度テニュアをとったら、研究しなくてのんびりしてしよう人はいないの?」、と尋ねてみた。

 タマノイさんは、「研究成果が出なくなれば、研究スペースはなくなるし、給料はあがらないので、みんな辞めていきますよ。最初の5年間に支給される30万ドルも全部使えば、大学内での評価が決定的に悪くなるので、なるべく早く何とか自分でグラントをとる努力をしますね」、と答えてくれた。日本は談合はするのに組織化はうまくいかないの?

  「'97年にノーベル賞をもらったボイヤーがいる建物がUCLAの分子生物学の核になっているんです。毎月1回セミナーがあって、UC[_Aの生命科学系の全教官190人ぐらいの内、だいたい50人ぐらいが集まって研究の話をしたり、政治的な根回しをしたりするんです。日本でも、例えば、東大の駒場なんか、分子生物学の研究者を全員集めれば、世界的にも最大級の人数になると思うんですがね」、とタマノイさん。

 「いやー、日本は研究室の壁が厚いし、1つの大学内の教官同士が、フランクに集よって忌憚なく研究の話をするというような状況じゃないですね。議論を好まないんでしょうか」、と 。

 「じゃ、研究室はタコツボなんてすね」

 「エー、それに学科や学部の壁もあるし」

 「じゃ,学部学科のタコツボの中にさらに研究室というタコヽツボがあるんですか?」

 「そうです」

 「‥‥‥」