骨関節炎にはmiRNA(miR-146a)の調節作用が有効

最も多い慢性疾患のうちの一つである骨関節炎(OA)は、ECM合成および分解のバランスが崩れると、進行性の関節軟骨変性を引き起こすため、変形性関節軟骨の再構築には大きな努力が注ぎ込まれてきたものの、OAは今のところ進行性の不可逆的な疾患であると考えられている。骨関節炎患者および健常者の血清を取り込んだ遺伝子マイクロアレイでは、9種類のmiRNAがアップレギュレートされ、さらに9種類のmiRNAがダウンレギュレートされたため、これは骨関節炎の進行に対するmiRNAの関与を示唆している[42]。
関節炎軟骨におけるmiR-146aの調節作用
骨関節炎患者の関節軟骨を対象とした研究によって、miR-146aは骨表層部の軟骨細胞で高発現することが明らかとなった。その上、miR-146aは軽度のOA軟骨でも強く発現し、その発現レベルは変性が進むとともに徐々に減少していた。また、miR-146aの高発現時には骨代謝因子MMP-13の発現が低下したため[43]、miR-146aは関連遺伝子への標的作用を有し、IRK1とTRAF6発現のダウンレギュレーションを通して、MMP-13や他の遺伝子の発現を阻害するのかもしれない[44]。Nakasaら[45]はmiR-146a発現が破骨細胞分化を阻害することと、さらに2本鎖miR-146a投与が関節炎マウスの関節破壊を阻止することを発見した。従って、miR-146aはOA関連骨損傷の新規治療標的として有望である。

miRNAは骨関節炎の治療標的になると期待されている
MMP-13とIGFBP-5はその両方が関節炎軟骨の病原因子であり、ヒト軟骨細胞におけるmiR-9とmiR-98、およびmiR-146の過剰発現は、IL-1βの減少とTNF-αmRNAの増加をもたらすことになる。miR-9の阻害や過剰発現がMMP-13とⅡ型コラーゲンの含有量を調節するため、miRNAは骨関節炎で保護的な役割を担っているのかもしれない[46]。OA患者の軟骨細胞におけるmiR-140発現は、正常な軟骨のものよりも顕著に低下しており、さらに機能的な干渉実験の後には、IGFBP-5がmiR-140の標的遺伝子であることがわかった[47]。また、miR-27aはMMP-13とIGFBP-5の合成を減少させるという、直接的な方法で関節炎を制御していた。Akhtarの報告では、miR-27bが軟骨細胞のIL-1β誘導性MMP-13発現を阻害するとのことである[48]。そして、ニワトリ肢における間葉系幹細胞の軟骨形成期には、miR-34aがEphA5の標的化を通して細胞凝集を阻害していた[49]。miR-34a発現が抑制されているウサギ軟骨細胞では、IL-1β誘導性アポトーシスが著しく減少していたため、miR-34a発現抑制による軟骨変性阻害は、骨関節炎の新しい治療方法になるかもしれない[50]。

<strong>マイクロRNAの今後の展望</strong>
転写後調節因子であるmiRNAが、ヒト転写調節機構の3分の1でその役割を果たしていることが明らかになったことは、間違いなく遺伝子工学の飛躍的進歩と言える。そして過去数年間でmiRNAの研究分野が大きく進展した結果、骨および関節組織から数多くの組織特異的miRNAが同定されてきた。しかし、潜在的なmiRNA標的部位の同定は、依然として解明すべき大きな問題の一つであるため、骨に対してはどのmiRNAが最も重要であるのかをさらに調査し、骨の形成と再構築、骨折修復、および骨関連疾患におけるmiRNAの役割を明確にしていく必要がある。細胞生物学分野におけるmiRNAの発見に加えて、miRNAの構造変換に関する研究が、生物学や医療工学を含む学際的な生体医工学分野でますます注目を集めている[51]。そのため、miRNAは組織工学と再生医療の発展を推進すると予想されており、さらに、miRNAの調節メカニズムをより細部まで理解できれば、何らかの疾患の治療標的として特定のmiRNAを用いることが、将来の研究課題になるかもしれないと考えられている。そしてこれによって、骨形成研究に役立つ効果的なモデルや、骨組織工学を臨床的に応用する上での理論的および実験的基準が得られると期待されている。