破骨細胞に対するmiRNAの調節作用

破骨細胞に対するmiRNA作用の研究は、ここ数年間で新しい進展を見せている。スガタニらはマウス破骨前駆細胞株RAW264.7におけるmiR-223前駆体の過剰発現が、TRAP陽性多核細胞の形成を完全に阻止し得ることを発見し[25]、さらに追跡調査によって、破骨細胞の形成段階ではmiR-223が、NFI-A発現とマクロファージのコロニー刺激因子受容体発現を調節することを見出した[26]。そしてRANKL処理済みダイサー欠損細胞ではmiR-155発現が弱いということと[27]、miR-155ノックアウトマウスにおいては破骨細胞の生成数が減少し、その結果として局所的な骨破壊レベルが著しく低下することがわかった[28]。従って、miR-155は骨芽細胞機能を阻害し得る調節因子であると考えられる。

非肥大性軟骨細胞で特異的に発現するヒストン脱アセチル化酵素4(HDAC4)は、Runx2活性の阻害を通して軟骨細胞の肥大化を調節している可能性がある。また、miR-140は胚発生期のゼブラフィッシュ軟骨組織で特異的に発現する[4]。そしてTuddenhamらは、miR-140がマウス胚発生期の軟骨組織で特異的に発現することと、HDAC4遺伝子がmiR-140の下流標的であることを確認した[29]。さらに標的分析とルシフェラーゼレポーター測定を行った他の2つの研究グループも、HDAC4がmiR-140の標的であることを確認しており[30、31]、また、軟骨細胞の増殖と分化におけるmiR-140の重要な役割も実証済みである[32、33]。そのため、miR-140はHDAC4発現の阻害を通してHDAC4によるRunx2の阻害を解消し、軟骨細胞肥大化と骨芽細胞分化を促進させると考えられる。
miR-145はMSCの軟骨細胞分化に関与している
我々の研究グループはマイクロアレイ技術とルシフェラーゼアッセイを駆使し、miR-145が3'UTRの標的遺伝子Sox9に直接作用することを確認した[34、35]。そしてmiR-145の過剰発現は、Col2a1やAgc1、COMP、Col9a2、およびCol11a1などMSCの遺伝子発現低下とGAG含有量減少をもたらす一方で、miR-145を阻害すると、前述した遺伝子のmRNA発現が大きく亢進し、さらにGAG含有量が増加するということが明らかとなった。しかし、C/EBPδやC/EBPβなどの脂肪細胞分化マーカー遺伝子はmiR-145の影響を受けなかったため、Sox9を標的遺伝子とするmiR-145は、軟骨細胞分化に対する重要な負の調節因子であり、同分化の初期段階においてSox9を直接的な標的にしていると考えられる。そして最近ではヒト膝関節軟骨細胞におけるmiR-145介在のSox9標的遺伝子調節作用が報告された。miR-145の増加は組織特異的miR-675およびmiR-140発現だけでなく、軟骨細胞外マトリックス遺伝子Col2a1とアグリカンの発現も特異的に低下させ、さらに関節炎軟骨ではmiR-145発現がRunx2とマトリックスメタロプロテアーゼ-13(MMP-13)のアップレギュレーションをもたらす可能性がある[36]。これらの結果を踏まえると、MSCの軟骨細胞分化に対するmiRNA介在の調節作用に関しては、miR-145がその新規メカニズムを与え得るものであり、さらにmiR-145が軟骨修復法の新規標的になるかもしれないということがわかる。

軟骨細胞分化に関与する他のmiRNA
miR-199はSmad1の標的化を通してマウスMSC「C3H10T1/2」の軟骨細胞分化を調節することが、ある研究グループによって明らかとなり[37]、また、別の研究グループは正常な軟骨細胞におけるmiRNA発現を分析し、軟骨特異的miR-675が軟骨マトリクス成分Ⅱ型コラーゲンの発現を促進させることを見出した[38]。Kimら[39]はニワトリ間葉系幹細胞のmiRNA発現プロファイルを分析し、miR-221がSlugタンパク質分解におけるMdm2の負の調節を通して、軟骨細胞増殖を亢進させることを確認した。また、ウサギ軟骨細胞ではmiR-21が軟骨細胞増殖と軟骨マトリクス合成を大きく促進させることが、最近になって明らかとなっている[40]。さらにウシ前部の負荷領域におけるmiR-222発現は後部の無負荷領域、つまり大腿骨内側顆における同発現よりも強いため、miR-222は関節軟骨の機械的変換プロセスにおける調節因子であるかもしれないということが、Dunnらによって示されている[41]。軟骨形成上のmiRNA調節メカニズムに関するデータの質を向上させる上で、これらの研究結果はそのすべてが有用なものとなる。