癌治療法の動向

 

  ドクター・カケフダの講義がつづく。学生は1人しかいないから、イネムリはできない。 、セッセとノートをとる。ドクター・カケフダはお医者さんでもある。癌の基礎
研究の動向から癌の治療法の動向へと話が移っていった。

 「いよまでの癌の治療は、傷ついた遺伝子をもつ細胞を叩き⊃ぶそうと、放射線と薬を使った。癌患者に強い放射線をあて、強い薬を投与した。ところがこの場合、巻き添え
を食って正常な細胞まで死んでしまう。それで、白血球をつくる骨髄を新たに移植して、正常細胞を補充して患者の生命を保つというようなことをしてきた。しかし、先ほどの
ような研究が進むと、もう多量の放射線、多量の薬というやり方は必要としない。傷ついた遺伝子をもつ細胞(癌細胞)を見つけて殺すp53のようなタンパク質に焦点を合わ
せればいいp53は普通の細胞の中にあるから、それをなんとか活性化させれば、あとは細胞自身の力で癌細胞(傷ついた遺伝子をもつ細胞)を殺していく。治療法もそういう方向
へ進んでいくと思う」

 と突然、リンリンリンと電話がなり出した。そういえば、2年前もお話の途中に電話が鵈ったっけ。ドクター・カケフダは、「ハロー、イエス、イエス」といったあと、2年
前は日本語に切り替わったが、今回は英語のままである。「オーケー、バット、ナットライトナウ(いますぐは都合が悪い)」と答え、さらに「トゥマローイズベター(明日に
してくれますか)」と応刔していた。

  電話が鳴ったのを潮に厂‘癌生物学”の講義は一休みにして、雑談に入った。

  ホッ。

日本には政策とか計画とかがない(みたいに思える)

  「日本の大学での研究は教授単位ですすんでいく。それはそれなりに突出した優れた研究もでるけど、一点突破式、ゲリラ方式、曲芸的なんだよ。いわゆる総合的なジュー
タン爆撃的な研究はできない、だから、茹研究全体という目で見ると、あちこち穴だらけだし、力強さ、底力がない。これが問題だね」。こんなこというと日本の大に怒られる
かもしれないけど、といいながら、いーところを突いてくる。

 「この日本のやり方(教授単位の研究システム)が、臨床研究では大きな欠点になっている。つより、日本での臨床研究は、1人の教授が中心でやるからシステマディックじ
ゃない。患者数がアメリカに比べ、1ケタから2ケタ少ない それで結局、研究結果の信頼性がすっと落ちてしまう」

 「アメリカと日本とでは、重点課題に対する取り組み方がまったく遐う気がする。アメリカでは茹を本気で解明して、国民が茹で苦しむのを本気で止めようとしているけど、
日本でぱ一応やってまずというポーズだけのようだ。だから、投入する人員も予算も大きく違っている上 の住む東京の共同住宅(日本ではマンションという)は14階建てで
120家族が住む、そのすぐとなりに木造2階建てのケトばせば倒れるようなふるーい小さな家がある。つより、東京には都市計画がない。てんでんバラバラにやっている。科
学技術に関しても、てんでんパラパラである。アメリカから見ると、日本には政策とか計画とかがない(みたいに思える)

 ドクター・カケフダは、[もっとも、現体制を打ちこわすのはむつかしい]とつけ加えた

 「アメリカでは、いい例じゃないけどマンハッタン計画、それにNASA,またこのNIHもそうだけど、大規模な計画を立てて国家的事業として科学をやる。計画は専門家が中心
になって立てているけど、いろいろな立場の人の知恵も入る構造になっている。そうやって、国民の納得できるしっかりした計画を立てている」

不肖ハクラク著より