卵巣がんの早期発見:嚢胞性腫瘍と充実性腫瘍

 卵巣はもともと、3~4cm径、5g程度のものであり、これが、がん化してテュスボール大くらいになっても、自覚症状はないのが普通である。しかし、発生したがんが、カプセルに被われたままでいればよいが、もし外向性に発育したとすれば、この程度の大きさでも、ほぼ間違いなく腹腔内への転移をきたすであろうことは十分に想像できる。

 このように自覚症状に乏しいことが、卵巣がんの早期診断をきわめて困難にしている原因となっている。卵巣がんがsilent killer といわれるゆえんである。

 最近は、 CA125、 CA199、 CEAなどの腫瘍マーカーを組み合わせて用いることによって、卵巣がんを非常に高い精度で診断できるようになった。

 しかし、自覚症状のない30歳以上の婦人の0. 3%程度にしか卵巣腫瘍が触診できず、この中の1 /10程度が悪性であろうと推測される状況では、集検のレベルでこのような腫瘍マーカーを用いることにも問題がある。

 卵巣にはがんだけが発生するわけではないことはいうまでもない。

 それどころか、卵巣にこそ他の臓器とは比較にならないほど、多種多彩な腫瘍が発生する。これを発生母組織と腫瘍の良性、悪性とによって分類したものがある。

 この中で、上に述べた、いわゆる卵巣がんと呼んでいるものは、表層上皮性一間質性由来の悪性腫瘍である。

 発生母組織別の腫瘍の頻度をみると、表層上皮性・間質性腫瘍が全体の75%を占め、次いで胚細胞由来のものが20%、そして残りの5%が性索間質性、つまり顆粒膜あるいは莢膜細胞由来ということになる。

 卵巣に腫瘤が触れる患者は、外来患者の2~3%程度である。

 卵巣に腫瘤があると、まず超音波断層法によってその大きさ・性状などを調べることになる。

 腫瘤の内容が均一の水様性のものだけで、腫瘤の壁がきれいに一層でたどれるものを嚢胞性腫瘍という。これに対して、腫瘤全体が充実性であったり、内容の大部分は水様性であるが一部充実性であるなどのものを一括して充実性腫瘍という。

 卵巣腫瘤の80%近くは嚢胞性であり、残りが充実性であるとされている。ごく大まかにいって充実性腫瘍の70~80%は、悪性であると考えてまい。

 年齢的にみれば、20歳以下(もちろん中学生や小学生も含まれる)の充実性の卵巣腫瘍と、比較的高齢者(40歳以上)の充実性腫瘍とは悪性のものである確率が高いと考えるべきである。前者では胚細胞由来のものが大部分であり、後者では表層上皮性・間質性の悪性腫瘍が主体をなす。

 もちろん、充実性の腫瘍の中には、髪の毛や歯や皮膚組織などを含む(皮様嚢胞胚)良性のものもある。いうまでもなく、最終的な診断は、摘出した腫瘍の組織学的検査によって行うことになる。

                治療方針

 手術療法を第一選択とする。これは腫瘍を摘出するために行うのであるが、もし完全に摘除できないことが予測されても開腹するのが原則である。それは、手術によって腫瘍を可能な限り縮小することを試みることと、もしそのような試みさえも全く不可能であっても、少なくともその腫瘍の組織診断だけはして置きたいからである。

 術後の組織診で、卵巣がんであることが確められたものには、特定のスケジュールで治療を行う。思学療法の第一選択としてCAP療法(Cyclophosp-hamide、 Adriamycin、 Cisplatin)を行っている。